再就職手当は、失業保険 を受給している方が、失業している状態から早期に再就職することで受給できる手当です。
終身雇用が崩壊しつつある日本において、自分が望むキャリアや職場環境に応じて転職するのは、もはや珍しくはないでしょう。
その場合で、失業保険を受給しながら再就職先を探している方も多いと思います。
しかし、失業保険を長期的に受給できることから、早期の再就職はもったいない、と感じることもあるかもしれません。
それを再就職の御祝い金のような形で一時金として支給してくれる制度が「再就職手当」になります。 再就職手当は、早期の再就職を促進するための制度であり、失業保険受給中に再就職が決まった場合、祝い金として支給されるのが再就職手当です。また、早期に再就職するほど、多く支給されます。
本記事では、そんな再就職手当に着目し、受給条件や受給手続きの方法について詳しく解説します。
目次
再就職手当とは
再就職手当は、失業保険の受給資格を満たしている人が、早期に再就職を果たした場合に、国から支給される手当です。
失業者の早期就職を促す目的があり、別名で「ハローワーク就職祝い金」ともよばれています。また、再就職までの期間が短期であればあるほど、支給額が多くなる特徴があります。
似たような制度として、失業保険が挙げられます。失業保険は、失業状態での生活支援を目的として支給される手当です。給付額や給付日数は、雇用保険の被保険者期間や離職理由・年齢によって異なります。
どちらも雇用保険から支給されている点や、労働者や失業者をサポートするための制度という点では同じです。しかし支給目的が異なり、失業保険と再就職手当を同時に受給することはできません。
一方で、失業している期間やその期間における収入のことを考えた場合、失業保険をもらい続けるよりも、可能な限り早期に再就職して再就職先の給与と再就職手当をどちらも受給するほうが金銭的なメリットが高いと考えられます。
再就職手当のメリット
もう少し掘り下げて、再就職手当のメリットについて考えていきます。
本章では、代表的なメリットを3点紹介します。
再就職へのモチベーションが高まる
再就職手当があることで、早期に社会復帰するモチベーションが高まります。
前述したように、失業保険を受け取り続けるより、早期に再就職して再就職手当をもらったほうが金銭的メリットがあります。
早期に再就職した場合は、再就職手当の支給に加え、再就職先からの給与も入り、生活が安定する可能性が高いからです。
そのようなメリットが享受できることで、早めに再就職する意欲が高まる効果があるでしょう。
再就職手当は課税されない
再就職手当は非課税のため、再就職先での年末調整や確定申告が不要になる点もメリットといえます。
再就職手当は、再就職を促すことを目的として支給されるお金です。仕事をしたことで得る収入とは意味合いが異なるため、課税対象にはなりません。
また、所得税における扶養に入る場合、再就職手当の金額は収入として扱われません。
ただし、社会保険の扶養算定に含まれる点には注意が必要です。
被扶養者の条件である「1年間の見込み収入が130万円未満 」のなかの「収入」に、再就職手当の金額も含まれます。場合によっては、被扶養者から外れてしまうケースが発生するかもしれません。
再就職先を退職しても、再び失業保険を申請できる
再就職手当を受け取ったあとに、仮に再就職先を退職した場合でも、失業保険が再申請できることも安心材料のひとつでしょう。
失業保険には「所定給付日数」が定められており、この日数分だけ失業保険がもらえます。
一度目の退職の際に再就職手当をもらい失業保険の支給がストップしたとしても、再就職先を退職したときに支給残日数の範囲内であれば失業保険を再受給できます。この場合、再就職手当で支給された金額分、失業保険が支払われたことになりますので、支給残日数から再就職手当の分が控除された残りが支払われることになります。
再就職手当は派遣社員・アルバイト・パートでも受給できる
再就職手当は、派遣社員やアルバイト・パートなどの雇用形態にかかわらず受給できます。
ただ、非正規雇用で再就職する場合は、雇用保険の加入の有無や雇用期間の条件がネックになる可能性もあります。
まずは以下の条件を満たせるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
● 勤務先での雇用保険に加入できる
● 勤務先で1年を超えて勤務 ができる
なお、雇用契約の契約更新によって、1年を超えての勤務が見込まれる場合であれば受給は可能です。ただし1年以下の短期勤務が前提となっている場合は対象外となります。注意しましょう。
次の章からは、上記以外の再就職手当を受け取る条件について、さらに詳しく紹介していきます。
再就職手当を受け取る条件
再就職手当を受け取るためには、支給条件をクリアしている必要があります。あらかじめご自身に受給資格があるかどうかの確認をおすすめします。
受給手続き後7日間の待期期間を満了していること
失業保険の受給手続きをおこなってから7日間は、失業保険が支給されない「待機期間」に該当します。
この待機期間は「失業状態であることを確認する」目的があります。
その7日間の間に再就職した場合は、再就職手当の受給対象にはなりません。
失業保険の支給残日数が3分の1以上残っていること
失業保険の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上残っていることが、再就職手当の支給条件です。
仮に給付日数が90日の場合、給付残日数が30日を切る前に再就職する必要があります。
再就職先と前職が、密接に関わっていないこと
直前に勤務していた会社と再就職先との間に密接な関わりがある場合には、再就職手当を受給できません。
前職からの紹介による就職や、資本金・人事・取引面で密接な関わりがある企業の場合、配置換えに近い位置づけと見なされ、厳密な意味での「再就職」には該当しないからです。
前職とは何も関係がない会社での再就職と認定された場合のみ、再就職手当は支給されます。
1年を超えて勤務することが確実であること
1年以下の勤務が確定している短期勤務契約の場合は、受給対象になりません。
ただし派遣社員や契約社員で、契約更新が前提となっている場合は、条件を満たすと認定されることもあります。
当初の雇用期間が1年以下の場合でも、契約更新が前提にあり、1年を超える勤務が見込まれる場合は、再就職手当の対象となる可能性がありますので、事前にハローワークに確認すると良いでしょう。
雇用保険に加入すること
再就職先で雇用保険に加入することが、再就職手当の支給条件となります。
雇用主には一定の条件下で、従業員を雇用保険に加入させる義務があるため、未加入の場合は再就職先に確認してみましょう。
3年以内に再就職手当または常用就職支度手当を受給していないこと
再就職日前の過去3年以内に、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていると、受給対象にはなりません。
過去に該当する手当を受け取ったことがある場合は、いつ受け取ったかを確認したうえで、再就職手当を申請するようにしましょう。
失業保険の受給資格が決定する前に再就職先の採用が内定していないこと
失業保険の受給資格が決定するより前に再就職の内定をもらった場合、再就職手当は受給対象外となります。
再就職手当を受け取ることができるのは、「失業保険の受給資格がある人が、失業保険の給付日数を一定以上残したうえで、早期に再就職できた」場合です。
例えば前職中に就職活動をしていて、失業保険の受給手続きをおこなった後の7日間の待期期間中に内定を獲得した場合は、失業とはみなされず、失業保険の受給資格がないため失業保険は受給できません。また、再就職手当も受給できません。
再就職手当は「労働の意思や能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態」にあった人のみが、国のセーフティーネットに該当します。
再就職手当が受給できないケース
新しい職場で働くことを支援する再就職手当ですが、場合によっては、再就職手当が受給できないこともあります。
受給条件の裏返しにもなりますが、あらためて受給できないケースも確認しておきましょう。
再就職先で雇用保険に未加入の場合
再就職先での雇用保険に未加入であった場合、再就職手当は受給できません。
なお雇用主は以下の要件を満たす場合は、社員を雇用保険に加入させる義務を担っています。
● 1週間の所定労働時間が20時間以上
● 31日以上の雇用見込みがある
この条件を考慮すると、派遣社員や契約社員でも、多くの場合は雇用保険に加入することになります。※加入条件は2028年以降に変更になる可能性があります。
要件を満たしているにもかかわらず、未加入な場合は事務手続きのミスも考えられるため、再就職先に確認しましょう。
失業保険の支給残日数が3分の1以上ない場合
雇用保険の失業保険における所定給付日数のうち、3分の1以上の日数が残っていないと、再就職手当は受給できません。
【支給残日数の数え方:例】
● 失業保険の受給資格決定日以後53日目に再就職・所定給付日数180日
● 支給日数 = 53日- 1日(再就職前日)- 7日(待機期間)= 45日
● 支給残日数 = 180日(所定給付日数)- 45日= 135日
支給残日数を計算するときは「7日間の待機期間を引く」点を忘れないよう注意しましょう。
雇用期間が条件に満たない場合
前述したように、再就職手当の要件のひとつが「再就職先に1年を超えて勤務することが確実であること」です。
短期間限定の派遣社員、アルバイト・パート勤務などで再就職した場合は、この要件を満たさないことがあります。
契約更新などの条件を確認し、1年を超えて勤務する可能性があるかどうかをチェックしてみましょう。
退職前と同じ企業・関係が強い企業に再就職した場合
離職前に勤務していた企業の関連会社や、密接な関係がある企業への再就職では、再就職手当を受給できません。
まず、新しい就職先が、離職前の会社と関連がないことを確認しましょう。
再就職手当を受け取るタイミング
再就職した旨をハローワークに報告、および手当の申請をしてから、およそ1ヵ月から2ヵ月後に再就職手当を受け取ることができます。
その期間で、書類の審査と並行し、再就職先に在籍確認連絡が入ります。
就職シーズンなどでハローワークが混み合う時期の場合は、このタイミングよりも遅くなる傾向があります。
なお再就職手当の申請期限は、再就職した日の翌日から原則1ヵ月以内 となるため、余裕を持った申請がおすすめです。
再就職手当の受給金額
ここからは、再就職手当の受給金額の算出方法についてお伝えします。
再就職手当の基本的な計算式は以下のとおりです。
再就職手当の受給額 = 基本手当日額 × 支給残日数 × 給付率
支給残日数とは、再就職した日の前日までに受給した失業保険の残り日数を指します。
つまり、残りの支給日数が多いほど、再就職手当の額は高くなることになります。
給付率は、再就職したときの基本手当の支給残日数によって、60%または70%と決められています。
・支給残日数が所定給付日数の3分の2以上残っている場合・・・・・・給付率70%
・支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っている場合・・・・・・給付率60%
失業保険の基本手当日額は、以下の計算式で算出できます。
・基本手当日額=離職前の6ヵ月間の給与合計額 ÷ 180(日)× 給付率
【ケース1】
基本手当日額が4,000円、所定給付日数90日の方が給付制限期間中に再就職した場合
・所定給付日数90日に対して、基本手当の支給残日数が90日となるため、給付率は70%
・再就職手当は、4,000円(基本手当日額)×90日(支給残日数)×70%(給付率)=252,000円
【ケース2】
基本手当日額が4,000円、所定給付日数が270日の方が、受給資格決定日以後100日目に就職した場合
・所定給付日数270日に対して、基本手当の支給残日数が178日(※1)となるため、給付率は60%
・再就職手当は、4,000円(基本手当日額)×178日(支給残日数)×60%(給付率)=427,200円
参考: 厚生労働省 再就職手当のご案内
上記ケースのように、基本手当日額と失業保険の残日数が多ければ多いほど、再就職手当の支給金額は増える仕組みになっています。
再就職手当を受給したいと考えている方は、ご自身の再就職手当の支給額を計算してみてください。
再就職手当を受け取るための手続き
再就職手当を受け取るためには、ご自身だけではなく再就職先で記入してもらう書類もあります。
手続きをしっかり把握し、スムーズな申請を心がけましょう。
再就職先から「採用証明書」をもらう
はじめに、再就職先から「再就職手当の申請者を雇用しました」ということを証明する「採用証明書」に記入してもらいます。
採用証明書は、必要事項が記入されていれば、フォーマットは特に問われません。
たとえば、ハローワークで受け取る「受給資格者のしおり」に封入されている書式を利用してもよいでしょう。
この書式はハローワークのホームページからダウンロードすることも可能です。
参考:東京労働局 雇用保険の給付を受けている皆様へ
ハローワークで再就職の届け出をする
以下の再就職を証明する書類をハローワークに提出したうえで、「再就職手当支給申請書」をもらいます。
● 採用証明書
● 雇用保険受給資格者証
● 失業認定申告書
なお「再就職手当支給申請書」は、ハローワークのホームページからダウンロードすることも可能です。
参考:厚生労働省 再就職手当支給申請書
再就職先で「再就職手当支給申請書」に記入してもらう
前章の「再就職手当支給申請書」を入手したうえで、再就職先に記入してもらいます。離職前の企業とのつながりがないことを証明する書類にも、忘れずに記入してもらいましょう。
ハローワークに必要書類を提出する
「再就職手当支給申請書」と「雇用保険受給資格者証」、および離職前の企業とつながりがないことを証明する書類をハローワークに提出し、再就職手当の申請をします。
この際、再就職先での勤務を証明するためのタイムカードの写しなどを求められることもあるため、念のために準備しておくとよいでしょう。
審査が完了すれば、指定先の銀行口座に受給額が振り込まれます。
再就職手当の申請期限を過ぎてしまったら
再就職手当の申請には「再就職の翌日から1ヵ月以内」という期限が定められています。
対象者に速やかに雇用保険の手当を給付するために設けられた期限です。
ただし「再就職手当の存在を知らなかった」場合や、「再就職先の仕事が忙しく、気付いたら1ヵ月以上経過してしまった」というケースもあるかもしれません。
期限内での手続きが原則ですが、期限が過ぎた場合であっても、再就職日から2年間以内であれば、再就職手当の申請は可能です。
しかし期限内に支給申請をしなかった場合、通常のケースと比べて支給が遅くなる可能性もあります。
もし申請期限を過ぎてしまったことに気付いたら、速やかに申請しましょう。
参考:厚生労働省 申請期限が過ぎたことにより給付を受けられなかった方へ
まとめ
今回は、失業者が早期に再就職を果たしたときに支給される、再就職手当についてとりあげました。
次の就職先が決まることで、精神的にも金銭的にも安心ができることに加え、労働力不足に悩む企業の手助けにもつながるでしょう。
本記事で受給のための条件や申請期間・手続きのプロセスについて確認いただき、ぜひ積極的に再就職手当を活用いただければ幸いです。
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