医療事務の仕事に挑戦する前に、資格が必要なのか知りたい方も多いでしょう。医療事務は資格がなくても仕事に付けますが、取得をしておいたほうが就職に有利になります。この記事では、医療事務の資格が必要なのか、資格を取得する場合のポイントについて解説します。
最後までお読みいただければ、資格を取得するかどうか判断し、医療事務の仕事に挑戦できるようになるでしょう。
目次
医療事務とは
医療事務とは、クリニックや病院などで、受付や医療費の計算、レセプト作成などをおこなう仕事です。レセプトとは、患者が負担した部分を除いた医療費を公的医療保険組合に請求するときに提出する診療報酬明細書を指します。医療事務には、患者に対する接遇スキルや医療費を計算するときのスピーディーな処理能力などが必要です。
勤務先の規模によって、受付や医療費の会計に特化していたり、さまざまな分野に携わったりなど仕事が異なります。医療機関によって、正社員や派遣社員、パートなどのさまざまな働き方があることが特徴です。
医療事務の仕事内容
医療事務の主な仕事内容は、以下のとおりです。
● 受付・会計
● レセプト業務
● クラーク業務
レセプトを作成するためには、カルテを正確に読み取り、ミスなく計算する必要があります。クラーク業務とは、医療スタッフのサポート業務です。カルテやレントゲンデータの整理・準備や、入退院の事務作業、食事に関する伝票作成などをおこないます。
医療事務の仕事について詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。
医療事務と調剤薬局事務の違いは?仕事内容や役立つ資格試験などもご紹介
医療事務の平均給与
医療事務の平均給与は正社員で年収338万円、ボーナス無しで月収に換算すると約28万円です。一方で、派遣社員の平均時給は1,272円のため、1日8時間、月20日勤務で計算すると月収215,040円、年収は2,580,480円となります。
ほかの医療職種の正社員の平均年収や派遣社員の平均時給は、以下のとおりです。
職種 | 正社員の平均年収 | 派遣社員の平均時給 |
介護士 | 324万円 | 1,579円 |
看護師 | 364万円 | 1,967円 |
看護助手 | 337万円 | 1,599円 |
理学療法士 | 368万円 | 1,475円 |
国家資格が必要な看護師に比べると低いですが、医療をサポートする職種のなかでは平均的ともいえます。
ただし、この数字はあくまで平均値のため、エリアやキャリア年数によって異なります。
参照:医療事務の仕事の年収・時給・給料(求人統計データ)
医療事務に資格は必要?
医療事務の仕事につくためには、特に資格を取得する必要はありません。医療事務に関するさまざまな資格は、あくまで知識と技術の証明をするためのものです。
とはいえ、医療事務の仕事は、医療分野に関する専門的なスキルが求められます。医療事務に関する資格を取得しておけば仕事に活かすことができ、キャリアパスが開けるでしょう。
資格を持つことのメリット
医療事務が資格を持つことのメリットは、以下の4つです。
● 仕事に役立つ知識が身につく
● 将来的に再就職しやすい
● 採用時に評価されやすい
● 資格手当を受け取れる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
仕事に役立つ知識が身につく
未経験で就職すると、仕事を進めるうえで必要となる専門知識の多さから、つまずいてしまう可能性があります。特に、医療費の計算やレセプトの作成には専門知識が必要になるためです。資格取得のために勉強をすれば、未経験でも入社後の挫折を防げるかもしれません。
また、資格を取得していれば、未経験で医療事務の仕事に就く不安を解消できるメリットもあります。医療事務に関する幅広い知識を学べるため、自分が携わっている業務が他の業務とどのようなつながりがあるのか理解し、仕事の流れを把握できます。
将来的に再就職しやすい
一般企業に比べると医療業界は景気の影響を受けにくく、安定的な需要があります。2036年には人口の3分の1が65歳以上の高齢者になるとの統計結果がある日本では、医療分野の需要の高まりが予想されています。
また、医療事務の仕事は、日本全国どのようなエリアでも募集されている仕事です。出産や介護で一時的に仕事を離れても、医療事務の資格があれば就職先を見つけやすいでしょう。医療事務の仕事は事務作業が中心のため、年齢を重ねても続けやすい仕事といえます。
医療業界について詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。
医療業界で働くとは?仕事の種類や内容、キャリアパスまで解説
採用時に評価されやすい
求人情報のなかには「医療事務の資格取得者を歓迎」と記載されたものもあります。未経験者に比べて、資格を保有している方は基本知識が身についているとみなされ、採用先からは研修の手間がかからないと考えられるためです。
また資格は仕事に対する向上心の証明となり、職務経歴書や履歴書に記載できます。自己PRにも活用できるため、面接でも好印象を残せるでしょう。
資格手当を受け取れる
医療事務関連の資格を所持していると、職場によっては資格手当が支給される可能性があります。資格手当は毎月給料にプラスして支給されるため、所持しているだけで給与がアップするでしょう。
なお、資格を取得しても、診療報酬の見直しや法律の改正などがあるため、学び続ける必要があります。医療事務として活躍するためには勉強を続け、幅広い知識を身につけましょう。
未経験の方のおすすめの医療事務資格
未経験の方におすすめの医療事務資格は、以下の5つです。
● 医療事務認定実務者®
● 医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)
● 診療報酬請求事務実務能力認定試験
● 医療事務管理士
● 医療事務
それぞれの資格の概要や試験日程などを解説します。
医療事務認定実務者®
医療事務認定実務者®試験とは、医療事務の実務における基本習熟度を判断する試験です。初心者向けの内容が出題されるため、合格率も比較的高い試験と言われています。医療事務の資格試験のなかでも認知されている資格試験であり、2023年度には9,306人が受験しました。
医療事務認定実務者®試験の概要は、以下のとおりです。
受験資格 | なし |
試験日程 | 毎月1回 |
試験会場 | 在宅・会場 |
試験実施方法 | マークシート |
受験料 | ・一般受験5,000円(税込) ・団体受験4,500円(税込) |
合否判定 | 学科・実技それぞれ60%以上 |
合格率 | 60~80% |
なお、合否判定は問題の難易度によって、変動する可能性があります。
学科試験では、以下の内容が出題されます。
分野 | 内容 |
接遇とマナーに関する知識 | ・医療機関での接遇とマナー ・社会的マナーと医療機関の接遇 ・医師との連携 ・患者との関わり方 |
医療機関における各種制度に関する知識 | ・医療法と医療法施行規則 ・医師法と医師の役割 ・医療保障制度の概要 ・医療保険の給付 ・健康保険法と保険診療 ・後期高齢者医療制度 ・介護保険制度の概要 ・診療報酬制度 ・マイナンバー制度 ・公費負担医療 |
医療事務業務に関する知識 | ・請求と支払の仕組み ・医療事務の流れ ・日常業務 ・レセプト作成の基本 |
診療報酬請求に関する知識 | ・診療報酬の算定における取決め・算定方法 ・入院時食事療養費の費用額を算定するための知識 |
実技試験では、レセプトの作成点検に関する知識や点数算定に関する知識が問われます。
医療事務技能審査試験(メディカル クラーク)
医療事務技能審査試験とは、一般社団法人日本医療教育財団が実施する試験です。合格者にはメディカル クラークの肩書きが与えられます。医科・歯科の2つの資格があり、50年間で171万人の受験者を誇る資格試験です。
医療事務技能審査試験の受験資格や試験日程などは、以下の表をご確認ください。
受験資格 | なし |
試験日程 | 毎月 |
試験会場 | 在宅 |
試験実施方法 | IBT(InternetBasedTesting)方式 |
受験料 | 8,800円(税込) |
合否判定 | 実技・学科の正答率が70%以上 |
合格率 | - |
IBT方式とは、自宅や学校などのパソコンで、インターネットを通して受験する方法です。学科・実技試験の終了後に、パソコンの画面に合否結果が表示されます。
学科試験では以下の内容が出題されます。
● 医療保険制度
● 医事法規一般
● 医療保障制度
● 公費負担医療制度
● 患者応対
● 医事業務
● 医学一般
● 薬学一般
● 診療報酬請求業務(出来高・DPC)
一方、実技試験ではコミュニケーションや診療報酬請求業務に関する問題が出されます。
診療報酬請求事務能力認定試験
診療報酬請求事務能力認定試験は、診療報酬請求事務に従事する方の資質の向上を図る試験です。この資格は厚生労働省が唯一認定している、公益財団法人日本医療保険事務協会が実施しています。試験は医科と歯科に分けられ、それぞれ学科試験と実技試験がおこなわれます。
医療事務の資格のなかでは、最も難しい資格といわれています。試験開始から2023年度の試験までに、42万人以上が受験している知名度のある資格です。
診療報酬請求事務実務能力認定試験の概要は、以下のとおりです。
受験資格 | なし |
試験日程 | 7月・12月の年2回 |
試験会場 | 札幌市、仙台市、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟市、金沢市、静岡市、愛知県、大阪府、岡山市、広島市、高松市、福岡県、熊本市、那覇市 |
試験実施方法 | - |
受験料 | 9,000円(税込) |
合否判定 | 年度によって異なる |
合格率 | 30%前後 |
出題範囲は「診療報酬請求事務能力認定試験ガイドライン」に記載されている以下の内容です。
分野 | 内容 |
医療保険制度 | ・被用者保険、国民健康保険、退職者医療および後期高齢者医療など ・現物給付および療養費、給付の対象外や制限 |
公費負担医療制度 | ・生活保護法 ・精神保健福祉法など |
保険医療機関 | ・保険医療機関の指定・保険医の登録 ・特定機能病院、地域医療支援病院、療養病床などの規定と保険医療の取扱い |
療養担当規則 | ・保険医療機関(保険薬局)および保険医(保険薬剤師)療養担当規則 ・高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付などの取扱いおよび担当に関する基準 |
診療報酬 | ・診療報酬点数表の算定方法 ・入院時食事療養および入院時生活療養の費用の算定方法 |
薬価基準、材料価格基準 | 保険医療で使用される医薬品・医療材料の価格・請求方法 |
診療報酬請求事務 | 診療報酬請求書・診療報酬明細書を作成するために必要な知識・実技 |
医療用語 | ・病名 ・検査法 ・医薬品などの用語 |
医学の基礎知識 | ・主要な身体の部位 ・臓器などの位置および名称・機能 ・病的状態 ・治療方法 |
薬学の基礎知識 | 医薬品の種類・名称・規格など |
医療関係法規 | ・医療法による医療施設(病院、診療所など)の規定 ・医師法・歯科医師法などの医療関係者に関する法律による医療機関の従事者の種類と業務 |
介護保険制度 | 保険者および被保険者に対する給付の内容制度 |
試験の内容には、法改正がどこまで出題されるのか必ず確認しましょう。
医療事務管理士
医療事務管理士は受付や診療請求などの医療事務として活躍するために必要なスキルや知識を測る試験です。技能認定振興協会(JSMA)が試験を実施しています。医療事務管理士は、2005年10月に特許庁から商標登録が認められた資格です。
医療事務管理士の受験資格や試験日程などは、以下の表をご確認ください。
受験資格 | なし |
試験日程 | 在宅:年8回 インターネット:指定なし |
試験会場 | 在宅・インターネット |
試験実施方法 | マークシート |
受験料 | 7,500円(税込) |
合否判定 | 【在宅】 実技試験:点検・作成問題ごとに約60%以上・かつ3問の合計で約80%以上 学科試験:約80%以上 【インターネット】 学科試験および実技試験の総合計が70%以上 |
合格率 | 50%程度 |
医療事務管理士の学科試験で、出題される範囲は以下のとおりです。
分野 | 内容 |
法規 | 医療保険制度・公費負担医療制度などについての知識 |
保険請求事務 | 診療報酬点数の算定・診療報酬明細書の作成・医療用語の知識 |
医学一般 | 臓器・生理機能・傷病などの知識 |
実技では、レセプト点検や、外来や入院したときのレセプト作成が出題されます。
医療事務
医療事務の資格は、一般社団法人日本能力開発推進協会が実施する資格です。医療保険制度や診療報酬などの知識を備えていることを証明できます。
医療事務試験の概要は、以下のとおりです。
受験資格 | 認定教育機関のカリキュラムを履修かつ、受験可能期間に該当 |
試験日程 | 受験可能期間 |
試験会場 | 在宅 |
試験実施方法 | - |
受験料 | 5,600円(税込) |
合否判定 | 得点率70%以上 |
合格率 | - |
医療事務の資格では、以下の内容が出題されます。
● 医療保険制度概論
● 診療報酬、薬価基準、材料価格基準などの基礎知識
● 医療用語および医学、薬学の基礎知識
● 診療報酬請求事務の実技
試験の申し込みは、インターネットに限られています。
資格の選び方
医療事務の資格を選ぶときは、以下の2つのポイントを押さえましょう。
● 身につけたいスキルはなにか?
● 認知度のある資格か?
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
身につけたいスキルはなにか?
医療事務の資格には、事務全般の知識を証明するものだけでなく、会計やレセプトに特化したものがあります。資格勉強を通じて身につけたいスキルが学べるのか、確認してから申し込みましょう。
また、資格によって出題される分野だけでなく、難易度も異なります。資格試験によっては、独学での合格が難しく、大学や専門学校に通って取得する場合もあります。身につけたいスキルと、自分が資格取得にかけられる勉強時間の兼ね合いを考えながら、医療事務に関する資格を選びましょう。
認知度のある資格か?
就職・転職活動に医療事務の資格を活かしたい場合は、認知度のある資格かどうか確認しましょう。資格によっては、医療機関にあまり認知されていなかったり、評価されていなかったりする資格もあります。公式ホームページで、受験者数や資格試験が開始された年度をチェックしてください。
また、求人情報で資格手当などがあるかどうかを確認し、就職・転職活動に活かせるのか確認しましょう。手当がある医療事務の資格であれば、認知されており、採用担当者からの評価が高いことが伺えます。
資格取得のための勉強方法は?
資格取得には、以下の3つの方法があります。
● 大学・専門学校
● 通信講座
● 独学
それぞれの方法のメリットやデメリットについて解説します。
大学・専門学校
資格の取得から就職までの充実したサポートを受けたい方は、大学や専門学校に通いましょう。医療系の大学や専門学校は、面接対策や履歴書の指導など就労までのサポートが充実しているケースがほとんどです。
しかし、大学や専門学校への進学は卒業までに時間がかかり、まとまった学費が必要になるデメリットがあります。時間や経済的な余裕があり、充実したサポートを受けたい方におすすめの方法です。
通信講座
通信講座は、自分のペースで医療事務の資格の勉強を進められます。大学や専門学校と同様に、わからない部分を講師に質問できるため、資格勉強でつまずくことが少ないでしょう。
資格試験や講座によって異なりますが、受講にかかる費用は数万円程度です。自分のペースで資格勉強をしたい方や質問できる環境が欲しい方は、通信講座がおすすめです。
独学
市販のテキストや動画教材などを買って自分で進める独学のメリットは、場所や時間を問わず勉強が可能で、大学や通信講座に比べて費用がかからないことです。しかし、モチベーションが維持しにくく、わからない箇所があっても自分で解決しなければならないデメリットがあります。
独学は、学費を抑えたい方や勉強をコツコツと進められる方におすすめです。
勉強方法に迷っている方は、まずは独学で勉強してみて、自力での合格が難しいと感じた場合は、通信講座や大学・専門学校に通いましょう。
資格取得までの流れや取得にかかる時間について
医療事務の資格取得は、以下の流れで進めます。
● 試験日程・申込締切日のリサーチ
● 資料・申込書の取り寄せ
● 受験料の支払い
● 試験の受験
● 合否の連絡
資格試験によって、勉強時間が3ヵ月から1年程度かかるものもあります。資格試験の勉強時間を確保したうえで、申し込みましょう。申込書は公式サイトからダウンロードするものや、郵送で取り寄せるものなどがあるため、申込期間に余裕を持って手続きを進めることがポイントです。
受験料の振込は、金融機関振込やクレジットカードなどの方法があります。資格試験によっては当日に支払うケースもあるため、現金の用意が必要かどうか確認してください。申し込みが完了すると、受験票や受験に関するメールが送られてきます。
在宅の試験では、インターネットを通して実施するものや、回答や問題用紙を返送するものがあります。返送する資格試験は運営団体に提出する期限が設定されているため、早めに送付しましょう。
会場受験の場合、受験票や身分証明書、筆記用具などの忘れ物をしないように、前日には準備を済ませておいてください。当日は、電車の遅延や車でのアクシデントといった交通事情を踏まえて、早めに家を出ることをおすすめします。資格試験によっては、テキストの持ち込みが可能なものもあります。
合否は、その場で通知されるケースや、後日郵送されるケースがあります。試験を申し込む際に通知方法を確認しておくと慌てずに済みます。
資格の合格証は就職・転職活動で必要になるため、大切に保存してください。万が一、紛失してしまった場合は、再発行の費用を支払うことで、再交付を受け付けている資格もあります。再交付には2週間から1ヵ月程度かかることがあるため、必要な日程が決まっている場合は早めに依頼しましょう。
まとめ
医療事務の仕事では、資格があれば業務に役立つ知識が身につき、将来的にも再就職しやすいメリットがあります。
未経験の方におすすめの医療事務の資格は、医療事務認定実務者®や医療事務技能審査試験などです。資格を選ぶときは、どのようなスキルを身につけたいのか、認知度があるのかを考えてみましょう。
資格試験に合格するためには専門学校への通学や通信講座、独学などがあります。とはいえ、医療事務の仕事は資格なしでも挑戦できるため、未経験からのチャレンジも可能です。
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