2022年10月17日
2022年10月に社会保険加入の基準が拡大されます。現在は、就業先に501人以上の従業員がいる場合に社会保険の加入義務がありますが、今後は従業員数が101人以上と緩和されます。この記事では、2022年10月から変わる社会保険の加入条件について解説しています。年収の壁や、所得税と社会保険の扶養の範囲の違いなどもあわせて解説していますので、ぜひお役立てください。
目次
扶養とは
扶養とは、家族や親族から経済的に援助を受けることを指します。「妻を扶養に入れる」「子供を扶養する」「親の扶養に入る」などの使われ方をすることが一般的です。世帯主だけでなく、扶養されている親族や家族の収入が増えることで扶養から外れると、世帯主、被扶養者それぞれの税金や社会保険に影響があります。
扶養範囲内とは
扶養には、税制上の扶養と社会保険上の扶養があります。被扶養者の年収によって、受けられる控除や納税額の義務が異なります。
税制上の扶養
税制上の扶養では、被扶養者の年収が98万円、103万円を超えたとき税金が大きく変わります。被扶養者の年収が98万円未満では、住民税や所得税の支払義務がありません。年収が103万円を超えると、所得税の支払い義務が生じます。103万円を超えることで被扶養者の支払う税金の金額が変わるのは、配偶者控除・配偶者特別控除による税制上の優遇があるためです。
配偶者控除とは
配偶者特別控除は、所得が48万円以上あり配偶者控除の対象外でも、世帯主に一定金額の所得控除を認める制度です。世帯主の所得が1000万円以下の場合、配偶者の所得が133万円以下までは所得控除が適用されます。
社会保険上の扶養とは
社会保険上の扶養とは、年収が一定額以下の場合、保険料を負担しなくても社会保険に加入できる制度です。社会保険には、厚生年金と健康保険が含まれます。被扶養者の年収が130万円を超えると、世帯主の社会保険から外れるため自分で社会保険に加入しなくてはなりません。
扶養範囲を超える「年収の壁」とは
世帯主の扶養から外れる年収の基準額を超えて働いた場合、社会保険料や所得税の支払義務が生じます。
103万円の壁
103万円の壁とは年収が103万円を超えたときに、被扶養者にも所得税がかかることを指します。給与所得者の場合、年収が103万円以下なら、基礎控除分の48万円と給与所得控除分の55万円が控除されます。年収が103万円以下の場合に所得税がかからないのは、基礎控除と給与所得控除の控除額に関係しています。
106万の壁
106万円の壁とは、条件によって社会保険加入義務が生じることを指します。2016年に制度が改正されて、被扶養者の年収が106万円以上の場合、一定の条件を満たせば、社会保険の加入義務が生じるようになりました。106万円以上で社会保険に加入する場合には、所得のほか、就業先の従業員数が501名以上、就業時間が週に20時間以上などの条件があります。
130万の壁
130万円の壁とは、扶養から外れて社会保険に加入する義務があることを指します。106万円の壁とは異なり、就業先の状況や就業時間は影響しません。社会保険料は、月額の賃金ではなく標準報酬月額で算出されます。社会保険料の算定基礎となる報酬月額は、4月〜6月の3ヶ月分の給与の平均です。基本給のほか、残業代や交通費、住宅手当や家族手当などの諸手当も含まれます。
150万の壁
配偶者特別控除を最大38万円受けられる上限が、年収150万円です。年収が150万円を超えると配偶者控除の対象から外れ、配偶者特別控除の金額も減少します。配偶者特別控除を38万円受け取れる上限が150万円未満なのは、「配偶者特別控除の満額38万円で控除できる配偶者の所得上限額95万円」と「被扶養者の給与所得控除55万円」の合計額が150万円のためです。
ただし、世帯主の合計所得額が900万円を超えると、26万円、13万円と下がります。
配偶者の合計所得額 |
控除を受ける納税者本人の合計所得額 | ||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
|
48万円超~ 95万円以下 |
38万円 | 26万円 | 13万円 |
201万の壁
配偶者特別控除が適用されるか否かの線引きが、201万円の壁です。年収201万円を超えた場合、配偶者特別控除が対象外となります。「配偶者特別控除が適用できる配偶者の所得上限額が133万円」と「給与収入201万円の給与控除額が68万3,000円」の合計額が201万円のためです。
年収201万円以上は、配偶者特別控除がゼロ(0円)になるため、所得控除が38万円あるか、まったくなくなるかで、世帯主の手取り額に大きく影響するため注意が必要です。
配偶者の合計所得額 |
控除を受ける納税者本人の合計所得額 | ||
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
|
130万円超~ 133万円以下 |
3万円 | 2万円 | 1万円 |
133万円超 | 0円 | 0円 | 0円 |
2022年からの社会保険の適用について
会社の規模や就業条件によっては、年収106万円以上から社会保険の加入が義務付けられています。2022年10月から適用範囲が拡大されるため、変更点について解説します。
2022年10月からの社会保険加入範囲
2022年10月からは、社会保険の適用条件が従業員数101人以上の会社に変更されます。従業員とは、「フルタイムで働く従業員」と「週の労働時間がフルタイムで働く従業員の4分の3以上の従業員」の合計数です。従業員数が、直近12ヶ月のうち6ヶ月以上基準を上回っている場合には、適用対象となります。一度適用対象になると、その後基準を下回っても原則として適用され続けますが、被保険者の4分の3以上の同意をもって適用対象外となることも可能です。
なお、2024年10月からは従業員数が51名以上の会社で社会保険の適用が拡大される予定です。
社会保険加入の目安
短時間労働者が社会保険の適用になるには、従業員が101人以上の会社である以外にも条件が必要です。被雇用者側の労働時間や賃金の目安は、現在の基準である「一週間の就業時間が20時間以上」「賃金が月額88,000円以上」「学生ではない」3つの条件に変わりはありません。現在は雇用期間が1年以上の場合に社会保険加入義務がありますが、今後は雇用期間が2ヶ月以上に変更されます。
なお、賃金は基本給と諸手当を含めた金額です。交通費や休日出勤による割増賃金などは含まれません。
扶養範囲で働くメリット
扶養範囲内で働く場合、税金の負担を減らせるだけでなく、控除や手当を受けられるなどのメリットもあります。
被保険者も所得控除が受けられる
扶養内で働くことは、被保険者にとっても税制上でメリットになります。また、扶養対象の親族がいる被保険者は、所得控除が受けられるため、支払う税金が少なくなります。配偶者が被扶養者の場合は、配偶者控除、配偶者特別控除により税金額が減少します。
国民年金・健康保険に加入する必要がない
被保険者の扶養に入ることで、被扶養者の国民年金保険料・健康保険料を支払っているとみなされるため、国民年金・健康保険に加入する必要がありません。老齢年金以外に、障害年金や遺族年金も補填されます。なお、被扶養者の制度は、被保険者が給与所得者の場合に適用されます。自営業は適用範囲外のため、注意が必要です。
勤務先から扶養手当や家族手当が出る
被扶養者は、被保険者の勤務先から家族手当や扶養手当を受けられることがあります。会社独自の制度であるため、支給条件は各企業に委ねられています。支給条件によっては、扶養を抜けると手当の対象から外れてしまいます。
デメリット
扶養範囲内で働くと、将来の年金や手当金の受け取り額が減少します。また、働き方と収入の板挟みになることも懸念材料のひとつです。
将来受け取れる年金額が減る
扶養範囲内では厚生年金に加入できないため、将来受け取れる年金額が少なくなります。厚生年金に加入すると、年金は国民年金と厚生年金の二階建てになります。厚生年金は老齢・障害・死亡保障が充実しています。特に、厚生年金では軽度の障害を対象とした障害3級から障害年金の給付が可能です。保障の範囲が狭まる点も大きなデメリットでしょう。
傷病手当金や出産手当金が受給できない
傷病手当や出産手当金を受け取るためには自分で社会保険に加入している必要があります。被扶養者の場合は、ケガや病気、出産などで職場を離れていたときの手当が受給できないため、収入の面でデメリットが大きいでしょう。扶養内であっても雇用保険に加入していれば、育児休暇給付金が受け取れる場合があります。
働き方が制限される
扶養内で働く場合、応募できる職種などが限られ、希望する職に就けない可能性があります。扶養内で働くには、パートやアルバイトなどの短時間労働が一般的です。時給や就業日数を制限する必要があるため、求人先との折り合いがつかず、諦めざるを得ない状況も生まれます。
社会保険を外れるときの保険料負担額
扶養から外れると、社会保険料を支払う必要があります。社会保険料は、年収以外に、被保険者の年齢も考慮して支払額が決定します。
年収106万円で社会保険料を負担する場合
年収106万円では、会社の規模や就業時間により社会保険の加入が必要になる場合があります。社会保険加入が必須になった場合の負担額について解説します。健康保険・厚生年金保険は、年収106万円の標準報酬月額8.8万円に基準の保険料をかけることで計算が可能です。
40歳未満、あるいは65歳以上では、以下の計算式で算出できます。
- 健康保険料:8.8万円×9.81%=632円
- 厚生年金保険料:8.8万円×18.3%=4,316円
40歳以上65歳未満では、以下の計算式で算出できます。
- 健康保険料:8.8万円×11.45%=10,076円
- 厚生年金保険料:8.8万円×18.3%=5,038円
いずれも保険料は雇用先と被雇用者とで折半されます。
※参考:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 全国健康保険協会
年収130万で社会保険料を負担する場合
年収130万円以上の場合は、就業先の規模にかかわらず社会保険加入義務が生じます。年収130万円の場合も、標準報酬月額をもとに保険料が算出されます。年収130万円の標準報酬月額11万円に基準保険料をかけて計算します。
40歳未満、あるいは65歳以上では、以下の計算式で算出できます。
- 健康保険料:11万×9.81%=10,791円
- 厚生年金保険料:11万×18.3%=5,395円
40歳以上65歳未満では、以下の計算式で算出できます。
- 健康保険料:11万×11.45%=12,595円
- 厚生年金保険料:11万×18.3%=6,297円
※参考:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 全国健康保険協会
まとめ
扶養範囲内で働く場合、被扶養者の年収に応じて、所得税や社会保険料の支払い金額が決まっています。所得税がかかるのは年収103万円以上から、社会保険料がかかるのは年収130万円以上からですが、会社の規模や雇用期間などにより、106万円から社会保険の加入義務が生じる場合もあります。
税金の負担を減らせるメリットと、将来の年金や手当金の受け取り額が減少するデメリットを踏まえて働き方を検討しましょう。
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